結局―――トラネコくんの恋バナ(向こうはそのつもりじゃないだろうけど)に夢中で、今日も浩一とのことを言えなかった。


私、何しに行ったのよ…


言わなきゃ…言うのよ朝都!


と決意してもう三日経ってるんですけど…


だから今日は早起きして黒猫のバイト先のドーナツ屋さんに来てみた。


考えたら私、こないだから黒猫のストーカー??


でもでも!早く言わなきゃ黒猫だって後から知ったら気分悪いだろうし。


意を決してドーナツ屋さんの自動扉をくぐる。


駅前のドーナツ屋さんで朝6時から開店してるって言ってた。


出勤前のサラリーマンが多めで、女性客は少ない。


外出禁止令が解けていない黒猫は早朝のバイトだけ許されている状態。


カウンターには黒猫と女性店員さん一人と言う状況だった。ドーナツ屋さんの制服を着た黒猫はもくもくとコーヒーやドーナツの補充をしている最中。


学校の制服のときも…ひそかに思ってるケド。


コスプレ?制服マジックか。萌え…


って、こんなところでバイオハザード繁殖させてるんじゃないわよ、私!


「いらっしゃいませ…」と黒猫が顔を上げて私に気付くとびっくりしたように目を丸める。


「お、おはよー…」


おずおずと手を挙げると、


「ど、どうしたの?」とさすがに黒猫も驚いている様子。


「あ、ちょっと…顔見たいな…って思って」


ぎこちなく言ってショーケースに並べられたドーナツを眺めるフリ。


顔見たいとか!ギャァ!私、何言っちゃってんの!


と顔から火を噴きそうになったけど、恥ずかしがっててはいかん。


「抜き打ち?俺ちゃんと仕事してるよ?」


と黒猫がカウンターに腕を乗せてにこにこ聞いてくる。


機嫌は良さそうだ。


よし!


「じゃぁこのストロベリーリングとホットコーヒー。終わったら途中まで一緒に行こう」


「マジで?ヤッタ♪」


黒猫が無邪気に笑ってガッツポーズ。


そんなに喜ばれるとは思ってなかったから、


そんな可愛い笑顔見ると、これから浩一とのことを話そうとしているのにくじけそうになる。


黒猫の笑顔






―――曇らせたくないよ。