浩一が医務室を出て行こうとする。
その広い背中を無言で見送っていると、
「嘘だよ」
浩一がちょっと振り向いた。
何が?
とは聞けなかった。
私はヒドイ女だ。
浩一にこそこそするな!って怒鳴ったばかりなのに、浩一のこの言葉に
告白自体が嘘であってほしい―――
そう願った。
冗談ぽく言ってくれたら、私も「ごめんね」って今だったら謝れる。
浩一は鍵をこちらに放り投げて、私は危うい手付きで何とかそれをキャッチ。
「鍵掛けたって嘘―――
最初から開いてた。
俺は卑怯かも。
誰か入ってきて何か見られても―――噂になったら
そうなったらちょっといいかも、って思った。
運がいいのか、悪いのか―――
ごめん」
浩一は「ごめん」と最後にもう一度小さく呟くと、今度こそ医務室を出て行った。
“ごめん”
は、私の台詞だよ。
私は気付いた。
浩一が卑怯な手を使って私に迫るような男じゃないことを。
浩一に、最初からそのつもりなんてなかったんだ。
私はこの日
親友を一人
失った。



