「結構有名だった。
クラスの女子より大人っぽくて、可愛くて目立つヤツだった。いいとこのお嬢で―――」
「ど、どうして付き合うことになったの?」
黒猫から告白したのかな…
そんな子が元カノだって知って私の心も穏やかじゃない。
同い歳ってカリンちゃんと一緒ってことか。若くてピチピチ…
ガクリ
しかもいいとこのお嬢様って…益々私とかけ離れてる。
高級ステーキと、スーパーで安売りしている細切れ肉ほどの違い。
今更ながら何で黒猫が私を選んだのか謎だよ。
「俺そのときはサッカーの部活やってて、あいつ…なんか良く見に来てたんだよね」
黒猫が過去を思い出してちょっと笑った。
中学時代の黒猫を―――私は、知らない。
「半年ぐらいそうやって遊びに来てたけど、ある日呼び出されて告られて。
正直、何で俺?って戸惑ったけど
悪い気がしなくて付き合うことにした」
「す、好きだったの…?」
おずおずと聞くと、
「俺はそのときあんまりそいつのこと知らなかった。だから好きとかじゃなかったと思う。
ただ美人だったし、目立つやつだからサ」
「ふ、ふーん…」
何でもないような大人の余裕を装うのに必死になって私は天井を見つめながら二本目のタバコに手を伸ばした。
何だろう…煙が目に染みたのかな。痛くなって目をしばしば。
いや
黒猫の過去恋話が染みるのだ。
カレシの過去恋話がこんなにも染みるなんて…はじめてだよ。
「そいつその辺では有名な資産家の一人娘でサ。
俺とは違う世界に居る女だった。
お稽古にバイオリンだぜ?それもかなり本格的なの」
黒猫が自嘲じみて笑って、私ははきかけていた煙をちょっと止めた。
バイオリン―――…



