「あんたにもらった火で、タバコがいつもよりおいしく感じるわ」
ふんっ、と嫌味っぽく笑うと、
黒猫はタバコを吸う私を満足そうに眺めながら、
「何から説明しようかな…ってずっと考えてて…」
と切り出した。
「あのバイオリニストのこと?あんたあの人と何かあった?」
「いや。直接的には…
話は遡るんだけどさ…」
黒猫は言いづらそうに俯いて、カフェオレのマグカップに視線を落とす。
「いいよ」
私は黒猫の過去話を受け入れるつもりで、長々と煙を吐いた。
私の様子を見てちょっと安心したように黒猫も頬を緩めて、
「俺の中学のときなんだけど…」
黒猫が言いかけたときだった。
TRRRR…
間が悪い、とはこのことを言うんだろうか。
いや、音を切っておかなかった私が悪い。
一瞬、浩一からかと思ったけど
着信:涼子
となっていてほっとした。
私は鳴り続けるケータイの音を無視するかのようにバッグの奥の方へケータイを押し込み、
「出たら?俺の話は逃げていかないし」
と黒猫がバッグを目配せする。
「…ごめん、すぐ終わる」
一応断りを入れて私はケータイを手にとった。
「ごめん、今黒猫…倭人のうちに来てるんだ」
涼子に説明すると
『ああ、ごめん。今日ってお勉強の日だった?』
「ううん。勉強じゃなくてちょっとプライベート。で、何かあった?」
『ああ、うん。例のツイッター、たくさんコメントが来てね。
シトウ ヒビキのこと』
涼子から言われて私は思わず黒猫の方を見た。
黒猫は会話が聞こえてない様子で目をぱちぱち。
「あー…ツイッターね。で、何て?」
『うん。今も都内でバイオリン教室開いてるって。場所は分かんないけど調べたらヒットするかも』
調べる―――か。
「うん、色々ありがとう。私、今黒猫といるから直接聞いてみる」
『…がんばってね』
涼子は何か察したのだろうか、早口に言って早々に通話を切った。