「こないだ変な風に帰っちゃってごめんね。


そしてなかなか連絡できなくてごめん」


黒猫は私の隣でカフェオレが入ったカップに口を付けた。


冷ましてあるのだろうか。あまり湯気が立っていないのに黒猫は熱そうに顔をしかめた。


「ううん…」


私もコーヒーに一口くちをつけて、そのほろ苦い味に目を細めた。


黒猫が何を話すのだろうかドキドキして私はひたすらにコーヒーに口を付け、そのすぐ隣で黒猫もどう切り出すのかタイミングを計るようにじっとカフェオレを見つめ…


ち、沈黙が重い…


「あのさ」

「ね、ねぇ…!」


二人して同時に声を発して、私たちは顔を見合わせて目をぱちぱち。


「朝都、お先にどーぞ」


促されて私は言い出しにくそうにちょっと変わったデザインの灰皿を引き寄せた。


みけネコお父様は禁煙を守ってるみたいだ。灰皿がきれい。


「いい?」そう聞くと、


「どーぞ」と黒猫が頷く。


タバコでも吸わないと、この重苦しい沈黙に絶えられない、と考えた。


安っぽい100円ライターをまわしても、フリント・ホイールはカチッカチっと空しい空回り音を鳴らすだけで火が点かない。


ガラにもなく緊張しているのか指先に力が入らない。


「貸してみ」


黒猫が私のライターを奪っていって


シュっ


火を灯してくれた。


空気の入れ替えのため開けっ放しにしてあった窓から風が入り込み、黒猫はわざわざ手をかざしてライターをタバコの先に近づけてくれる。


「な、慣れてるね……ホストみたい」


君はまだ高校生でしょ?またどこからか、変な仕草覚えて。


と思いながら炎の先にタバコを近づける。


「朝都も慣れてるね。ホストに火をつけてもらったことあるの?」


黒猫がちょっと意地悪そうにニヤリと笑って、


「い、行ったことないし!]


いつも通りの黒猫に私はいつも通り返していた。


「隠さなくていーよ。でもま、朝都に限ってホストに貢ぐってことはなさそーだ。


金にシビアだし。


『こんな安っぽい水割りで、ン万円取るの!?ぼったくりよ!』って喚いてそう」


………黒猫…私を何だと思ってる。


しかし、ハズレではないと思う。


でも


黒猫のお陰でちょっと肩の力が抜けた。