―♪


バイオリンの高音が一層強く響いて私の鼓膜を震わせる。


黒猫の手からすり抜けたリモコンが絨毯の上で跳ねた。


「この曲好きなの?」


表情のない顔で聞かれて私は思わずまばたきをしながら黒猫を見上げた。





「答えろよ。好きなの?」





いつになく冷たい口調で言われて私は益々困惑した。


何て答えればいいのか分からなかった。


好きと即答するほどこのバイオリニストのこと知らないし、嫌いと言う理由も見つからない。


答えを考えていると黒猫の手が私の腕をぐいと掴んだ。


いつになく乱暴な手付きに、私は―――只ならぬ気配を感じてちょっと怖くなった。


黒猫……どうしちゃったって言うの…


怯えたように黒猫を見上げると、黒猫は、はっとなったように目を開いて私の腕から手を離す。




「ごめん。




俺、今日は帰るワ」




そっけなくそう言って立ち上がる黒猫。


……どうして…?


さっきまではあんなに楽しかったのに。あんなに幸せだったのに。





どうして―――……



ワケも分からず私は黒猫を見上げてると、



「ごめんな」



黒猫はちっちゃくそう言って無理やり笑顔を浮かべ、



「ハンバーグ、ごちそうさま。うまかったよ。また連絡する」


それだけ言って制服の上着を掴み立ち去っていってしまった。


あとを追うことができなかった私。




だって彼が―――飼い主の手を必要としない、



孤独を愛する野良猫のようだったから―――



~♪


オーディオコンポからは重々しいメロディが流れてきて、それがやけに耳に障る。