~♪


オーディオから流れてくるのは、どこか物悲しいバイオリンのメロディ。


若手バイオリニストのオリジナル曲だけど、若者が聴くようなポップなものじゃなかった。


ムードもへったくれもない。


ぅわ!私ったら、何でこの場にきてこの曲!


敢えて流そうとしたわけじゃないのに、いっそ恭しいとも思えるそのメロディを耳に入れて私は焦あせ。


だけど黒猫はそんな私の焦りとは反対に


驚いたようにただひたすらに目を開いてその音楽に耳を傾けていた。





「これ、シトウ ヒビキの曲?」




そう聞かれて、私は顔だけを縦に振って頷いた。


確かそんな名前だった気が…


クラシックなんて全然興味がなかったしマイナーなバイオリニストだけど、涼子がこのバイオリニストが好きでCDを持っていた。


涼子は見た目と同じだけ趣味も優雅。クラシックは割りと好きで良く聞くって。


このCDは既存のクラシック音楽ではなくて彼の完全なオリジナル曲だけを収録したもの。


黒猫…このバイオリニスト好きなのかな。


って、黒猫とバイオリン…あんまイメージできないけど。


でも黒猫は“好き”と言った感じではなく、忌々しい何かを思い出したかのように表情を歪めて


オーディオのリモコンに手を伸ばした。


そのやや強引と呼べるような仕草に私の心臓がドキリ、と嫌な音を立てる。


私はわけも分からず黒猫の仕草を眺めていたけれど


予想通り黒猫が“切り”のボタンを押さえようとして、私はその手を阻んだ。


黒猫の手に自分の手を重ねて






「どうしたの?あんた変よ」






ちょっと心配になって聞いてみると、



重ねた手の下で黒猫の手からリモコンがすり抜けた。