「そこ、ゴキブリらしきものが見えたよ」
私がベッドの下を指差すと、
「マジで!?」
と慌ててベッドカバーを持ち上げて、ベッドの下を覗く黒猫。
嘘だけど。ゴキブリなんていないわよ?
私はすぐ背後に迫ってその様子を眺める。
ベッドの下には―――、一冊の本が隠されていた。
「エロ本発見」
意地悪く言ってやると、
「は!?」と黒猫は慌てた。
慌て方が可愛いし。
だてにあんたより五年長く生きてるわけじゃないのよ?今更男の部屋でそんな本見つけたからってガタガタ言わないし、何とも思わないわよ。
とちょっと苦笑を漏らすと、
「よく見ろよ、これのどこがエロ本なわけ?」と呆れたようにその本を取りだす黒猫。
僅かにほこりを被ったその本はサッカーの雑誌だった。
「サッカー、好きなの?」
「うん、俺サッカー部だった。足怪我してもうサッカーは無理って言われたから、しゃーないかぁって」
そう……だったんだぁ。
「まぁ普通の生活は普通に出来るし、こればっかりはしゃーない」
しゃーないってすぐに割り切れるものなの?
こんな人目のつかない場所に隠して、本当は今でも凄く好きなんじゃないの?
「ね、今度ボール遊びでもする?猫って好きでしょ?」
「あんたサッカーなんてできんの?見るからに運動神経なさそうだけど」
ム
そのとーりだけど。
「ボール遊びよ。猫にはちょうどいいでしょ!」と目を吊り上げると、
「はいはい、お手柔らかにね~」
と、
またも太陽みたいな笑顔で笑う。



