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でもドキドキしてるのは、やっぱり私だけみたいで黒猫はいつも通り。
いつも通りそっけない態度でデスクの椅子に座ると、すぐに大人しく参考書を取り出した。
「今日は英語。この参考書のP1~P5のマーカー引いてある部分だけ問題を解いて。
80点以上だったら、ご褒美あげる」
「ご褒美って、俺はガキかよ」
とブツブツ言いながらも、参考書に視線を落とす。
長い睫が縁取った少し吊りあがり気味の目。黒い前髪の隙間から僅かに伏せられたその目が
色っぽい。
ガキのくせして。黒猫のくせして。
こいつはときどき……予告もなく“男”の顔になる。
勉強机のすぐ横にセミダブルのベッドがあって、そのベッドはたった今昼寝から起き出してきたことを物語っているように、布団が僅かにめくれ上がっていた。
ベッド……
『猫には発情期ってもんがある』
浩一が変なことを言うから、意識しちゃうじゃん。
私は慌てて顔を戻すと、
「出来たよ?どこ見てンの?せーんせ?」
黒猫は目を細めて口の端に淡い笑みを浮かべて、挑発的に笑う。
黒猫は―――突然
男になる。



