大人と子供の考えの違いだと言われてしまえばそれで終わりだけど、
でも私たちはその純粋な気持ちを忘れてしまったのだ。
大人になるってもしかして
―――悲しいことかもしれない。
『早く大きくなりたいなー』
倭人が大きくなったら、あの子が憧れる“大人”になったら、
この純粋な気持ちを忘れちゃうのだろうか。
いつも無邪気なお日様の匂いを纏っているけど、いつかは私の知らないメンズものの香水とかつけるようになるのだろうか。
そんなのいやだよ。
大きくなんて
ならないで。
ってピーターパンじゃあるまいし。
人間は日々成長する。
いくつになっても―――昨日と今日とは違う。今日と明日も―――
そんなことを考えていると、研究室の近くの廊下で溝口さんとすれ違った。
手にはいつも持ち歩いているノートやら手帳やら持っている。納品の商品がないってことは研究室帰りか。
溝口さんは具合悪そうにして額を押さえて俯き加減に私の横を通り過ぎた。
昨日の今日だから私と顔を合わせ辛いのかと思ったけれど、それだけじゃなさそうだ。
「溝口さん…」
そっと声を掛けると、溝口さんがびっくりしたように顔を上げた。
やっぱりその顔は青白くて具合が悪そうだ。
「あ…朝都さん……すみません。気付かずに…」
「……いえ。大丈夫です?体調悪いんですか?」
ちょっと聞くと、
「…大丈夫です。ありがとうございます」
溝口さんは無理やり笑って背筋を正して歩き出そうとした。
そのときだった
バサバサっ
溝口さんの手からノートやら手帳やらが床に散らばり、溝口さんはぐったりと壁に寄りかかった。
青白い顔を隠すように片手で顔を覆って。
「溝口さん!ちょっと、大丈夫ですか!」



