「結婚…てね。だってまだ付き合っていないし」
溝口さんがちょっとたじろいだように顎を引いた。
「でも涼子さんのことが好きで告ったわけでしょ?」
黒猫がまたも問いかける。
どうしたんだろう。今日の黒猫はいつもにも増してよく喋る。
基本他人に無関心そうなのに←結構ヒドイ。
「ま、まぁ好きなのは大前提だけど」
「同棲してた人も好きだったんですか?」
「もちろんだよ」
溝口さんが慌てて答えて、
「じゃあ何でその人と結婚のこと考えなかったんですか」
黒猫がまたも畳み掛けるように口を開いた。
言葉に棘がある。
こんな黒猫の言葉―――はじめて聞いた。
ドキリとして黒猫を見上げると、黒猫は大きな黒い瞳をまばたきもせず、じっと溝口さんを捉えていた。
睨むようにまっすぐ。
まるでネコが威嚇するかのようなその視線に、私の方がドキンとして思わずぎゅっとスカートの裾を掴む。
でも溝口さんも高校生に睨まれて居竦むような人ではなかった。
「俺にだって事情があるって言ったでしょう?」
「何の事情ですか?結婚を決めるのに事情とか必要なんスか。
二人の気持ちが一致してればそうゆう話って自然に出るもんじゃないんスか?」
「あのねぇ
好き=結婚とか。
そんなのイマドキ考えないから」
若干苛立ったように前髪を乱暴に掻き揚げて溝口さんが声を僅かに荒げた。
こんな溝口さん―――はじめて見る。
いつも軽いイメージがあったのに、怒ると怖い人なのかもしれない。



