サンライズ。
それは恋のはじまり。
このオレンジジュースのような陽の光とともに、一日がはじまる。
この色のようなどこか懐かしい爽やかな香りを纏った
愛する人と―――
「でもさぁそれで言うとテキーラサンセットは終わりを示してるの?
私、もうサンセット飲めないじゃん」
可愛くない私がまたも減らず口を叩く。
ああ、こんなこと言いたかったわけじゃないのに。
でも“飲めない”ってとこに、終わりにしたくないって意味合いを込めて。
黒猫はジンジャーエールのグラスに口を付けながら、僅かに目を伏せる。
長い睫が頬に影を落として、二重瞼の際が僅かにピンク色。
それは少年だった黒猫がたまに見せる“男”の表情。
「日が暮れるってことはさー、夜の訪れじゃん?
夜は
恋人たちの時間だよ?」
ふいに振り向かれて、私の心臓がドキリと大きく波打った。
顔が再び熱くなるのを感じて私はテキーラサンライズを思わず一気飲み。
またも甘い味が喉を通り、恋の熱さと同じだけの温度が
喉を焼き付けるように通っていった。
いつも冷たいぐらいそっけないのに、たまにこっちがびっくりするほど甘いんだから。
ちくしょう、黒猫め。
年上のおねーさまを翻弄しやがって。
でも翻弄されるのも…
いいかもね?
「さ……サンセットもサンライズも……あんたと一緒に見たいなー」
「あと何年かしたら毎日一緒に見られるよ?」
黒猫がはにかみながら笑い、その笑顔の向こう側で
沈んでいく夕日をバックに悠々と歩く黒猫のシルエットが
見えた。



