触れるだけの軽いキス。
唇はすぐに離れていって、
「マンションのエレベーターでチューしたのはじめて。
ここさ、監視カメラ回ってンだよね」
黒猫がぎこちなく笑って箱の隅に取り付けてある黒い監視カメラを指でさす。
「う、噂されるよ。『財津さんとこの息子さん、彼女とエレベーターの中でキスしてたわよ』って」
わざと明るく言って黒猫を見上げると、
「監視員は男だよ。
てか、別に噂されてもいーし。
可愛い彼女が居ます、ラブラブですって自慢になるし?」
ら、ラブラブとな…
「部屋まで待てなかったから」
黒猫がちょっと俯いて私を抱きしめてくる。お日さまの香りに包まれて、あったかくて、力強い腕。
それと
密着した体から伝わってくる。黒猫の鼓動―――
あ、ドキドキしてる。
可愛い…
黒猫も…やっぱり緊張してたんだ。
それが何だか嬉しくて私もぎゅっと黒猫を抱きしめ返した。
ポーン…
エレベーターが目的の階で開いて、名残惜しそうに体を離そうとしたが
「……あー倭人……と、朝都ちゃん…ーーー!?」
出口でみけネコお父様が目を開いて立っていて、
サー…
私の顔から血の気が失せた。
「やべ」
黒猫も流石にマズイと思ったのかちっちゃく呟いて、私たちは抱き合ったままその場で固まった。
ああ、
今すぐテキーラを頭からかぶりたい。
そう思った瞬間だった。



