私の発言に黒猫は顔を上げて目をぱちぱち。
「いいけど、うち何にもないよ。
カエルの標本も、人体模型も、生きたマウスも。
“だいごろー”も。あるのはスルメぐらいかな」
黒猫……あんた、私を何だと思ってる。
てかまたもスルー??照れ隠し…には見えないから、ホントに意味が分かってないんだろうな。
女から誘ってるってのに、肝心なとき気付かないってのはやっぱまだ仔猫ちゃんだな。
黒猫は私のタバコの煙が目に染みたのか、ちょっと片目を閉じて涙目になった目の端を手の甲でぬぐっている。
その仕草が可愛くて、同時に色っぽくて―――
「別にいいよ。カエルもマウスもいなくても。
あんたが…―――倭人が居てくれれば。それで。
う、うちはベッドがちっちゃいから」
最後の方は消え入りそうになって思わず俯くと、目の前で黒猫が動きを止めた。
ちょっと顔を上げて様子を窺うと、黒猫は目の端に涙の粒を浮かべながら再び目をぱちぱち。
だけど、やがて再び乱暴に目をこすると私からぱっと顔を逸らした。
まだごしごしと目の端をぬぐいながらも、それでもその隙間から見えた顔がちょっと赤くなってる。
「煙い?ごめん……」と言いながら黒猫の顔にちょっと手を伸ばすと、
最後の一文字“ね”と言い終わらないうちに黒猫の手が私の手を包んだ。
「今度人体模型用意しておくから。
今日はヤツがいなくても我慢して?」
人体模型ってね。別に…超好き!……だけど。
(読者の皆様にだって暴露してなかった事実を何故黒猫が知ってる)
照れ隠しなのだろうか。
仔猫みたいな無邪気にじゃれてきたと思うと、しっかり大人の“男”の顔して口説いてくる。
とびきりの口説き文句に私はすでに失神しそう。
「人体模型はあったかくないもん。抱っこして眠るんなら黒猫の方がいいし」
私も照れ隠しで言うと、黒猫ははにかみながらちょっと笑った。



