「ほしーものなかったの?」


黒猫は店内を目配せ。


「あれとか?朝都とか似合いそうなのに」


「でもなんかピンとこないんだよね~大人っぽい涼子になら似合うと思うけど」私が答えると


「朝都も似合うと思うけど?でも、女の人って大変だな」と黒猫は苦笑い。


でもすぐに顔を真顔に戻すと、







「おねだりすりゃいいのに」





ぼそり、と呟いて


「おねだり?誰に」


思わずそう聞くと、


「俺に決まってンだろ?」


さも当たり前のように答える黒猫。


私は慌てて手を振った。


「いや!そんなことできないし!」


黒猫は私の言葉に何も返してこなかったけれど、


でも子供扱いしたことに“男”のプライドを傷つけちゃったかな…とすぐに考え直した。


別に子ども扱いしたわけじゃないし、そもそも私は付き合った人にもおねだりしたことない。


同じものを返せないって言うか、


物で返すことはできるけど、





気持ちや行動で返すことを求められても困るから。






でも黒猫の場合はそれとも違って。


なんか申し訳ないっていうかね…






と、ブツブツ考えながらもエスカレーターに乗ると、すぐ後ろに黒猫がついてくる。


隣に並ばない黒猫をちょっと不思議そうに見下ろすと、


黒猫はいつも通りのけだるそうな表情で遠くを見ている。


やっぱりさっきの傷つけちゃったのかな。



さっきまですぐ隣を歩いてくれたのに、今は後ろとか。


向かい側の下りるエスカレーターではやっぱり私と同じ年代のラブラブカップルの、


男の方が女の子の後ろからぎゅっと抱きしめている。


二人は楽しそうに笑い合ってるのを見て、


ちょっと寂しくなった。