「果凛、悪いけど今客が…」
と黒猫が慌てて追ってきたけど、カリンちゃんは機嫌良さそうにケーキのような箱を持ってキッチンに向かってきた。
その途中で、ソファに座ってる私を見ると目をまばたく。
「こ、こんにちは!」
慌てて頭を下げると、カリンちゃんも
「……あ…こんにちは……」とぎこちなく挨拶を返してくれた。
一瞬でカリンちゃんの表情が曇ったのが分かった。
「果凛…そうゆうわけだから。
俺、今“彼女”が来てるから。
これは亮太とでも食って?」
黒猫がケーキの箱を目配せすると、それでもカリンちゃんはぎこちなく笑みを浮かべながら
「だったら“彼女さん”も一緒に」
明らかに無理をしているみたいだ。
“彼女さん”と言うところをわざと強調して、でもその単語を出したとき一瞬だけ顔が引きつった。
「朝都だって気ぃ遣うだろ?亮太と食えって」
黒猫はその箱をカリンちゃんに押し戻して、カリンちゃんはまたも眉を寄せた。
カリンちゃんは―――
黒猫のことを…
彼女の態度を見て薄々勘付いていたけど、
黒猫は―――きっと
気付いてない。
私からすればライバルなのに、でも黒猫にとっては幼馴染でもあり妹でもあるカリンちゃん。
何だか今にも泣き出しそうなカリンちゃんを見て、私がここに居ちゃいけない気になった。
「倭人、私…あんたの様子を見にきただけだから、ケーキは三人で食べて。
帰るわ」
無理やり笑顔を浮かべてバッグをひっつかむと、私は立ち上がった。
黒猫の返事を聞かずして、玄関に向かおうとすると
黒猫が私の腕を掴んだ。
「帰んなよ」



