正直、私の何が黒猫に影響したのかわからないけど、
でも黒猫が嬉しそうで良かった。
「親父が母さんのことなんてもうどうでもいいのかな、って思ってたけど
こんな大事そうにしまってあるのを見てサ
どうでもいいんじゃなくて、親父の中にずっと眠り続けてるんだって
気付いた」
「そうだよ。お父様はお母さんのこと忘れたりはしてないんだよ」
悲しみは―――記憶とともに薄れる。
でも楽しかった嬉しかった。その感情だけを忘れないよう、人は記録する。
次の世代を生み育てるのも、また一つの記憶を形成する手段の一つ。
愛した人の血を引く
愛しぬいた人のDNAを受け継ぐ
そうやって残していくのだ。
私は黒猫の手をそっと握った。
この手も。
黒猫が動くたびに首筋をなでるふわふわの柔らかい黒い髪も。
黒曜石のような瞳も。
全部、全部―――
黒いふわふわの髪の先が私の首元をくすぐってちょっと体をよじらせると、
黒猫がふいに顔を上げた。
そのときだった。
「……って」
頬を押さえて黒猫が片目をつむる。
「え、どうした?大丈夫??」心配になって思わず頬に手を伸ばすと、
「何かに引っ掛けた」
と言って、黒猫は私の髪を遠慮がちにふわりとちょっと掻き揚げる。
「あー、朝都の……ピアス??」
「あ、ごめん。金具で肌を引っかいちゃった?」
何でもないように言ってるけど、私こー見えて結構ドキドキしてます。
だって
黒猫が興味深そうに目をぱちぱちさせて私の耳を眺めているんだもん。
黒猫…近い、近い!!



