「朝都」






黒猫はまっすぐにじっと私を見て、その黒い瞳に私が映し出された気がした。


はじめて黒猫から名前を呼ばれた。


名前記念日だな。


アサトなんて、男っぽくてイヤだった。ってか元々男の名前しか考えてなかったバカな両親が、生まれてびっくり。


慌てて漢字を変えたっていうオチだけどね。


ってかヤマト&アサトってどこの芸人コンビよ。


とツッコミそうになるが。



今は、この名前が凄く、凄く―――嬉しいよ


「朝都」


もう一度呼ばれて、私は目だけを上げた。






「あさと」





三度目に名前を呼ばれて、遠慮がちにそっと手を握られる。


黒猫の少し大きめのカーディガンから指先だけ覗いていて、


何だよ、その可愛い仕草は。ホント黒猫。


可愛い黒猫に私の心臓がキュっと鳴る。


「…って、呼んでいいのかどうか聞いてるんだけど」


またも不機嫌そうに顔を逸らすけれど、でもその顔にはやっぱりピンク色が浮かんでいる。


「いいよ」


その一言を呟くのが、私も精一杯。


何よ、私。


まるで初恋相手に接してるみたい。



黒猫は恥ずかしそうにはにかむと、「よっしゃ」と小さくガッツポーズ。






「やべー……俺、超嬉しいかも」






と眩しいぐらいの笑顔を向けてきた。




お日さまの香り。太陽みたいな笑顔。




てかあんた……名前呼んだだけだよ?



何なのその可愛い反応は。



私の方があんたの笑顔に「やべー」だよ。








だけどその一方で、



『家庭教師とその生徒の危ない関係』『先生が色々教えてあげるわ』




なんてタイトルが私の脳内を駆け巡ったのは



言うまでもない。




色んな意味で「やべぇ」だな、こりゃ。