まぁ、気を許してるかどうかはさておき。


「倭人くん、お母さんのことが思い出せないってちょっと考え込んでました。


それはたぶん砂糖さん…じゃなくて佐藤さんを新しい母親として迎え入れると、


お母さんのこと完全に忘れちゃうんじゃないかって、たぶん不安なんじゃないかな。



お父様はお母さんのこともう忘れちゃったんじゃないかって



そうやって自分のことも忘れられるんじゃないかって」



黒猫倭人が直接的にそんな言葉を発したわけじゃなかった。


けど、あのときの倭人の目は―――捨てられそうな仔猫みたいな目だったんだ。




私の言葉にみけネコお父様は目をぱちぱち。






「僕が紗依を忘れてる―――…?」





“サエ”って言うんだ、黒猫のお母さん。


「あいつ、そんなこと想ってたんだ。バカだなぁ。


僕が紗依のこと忘れるはずなんてないのに。





僕が―――紗依を……倭人を…




だって倭人は紗依に良く似ているんだ。


口数が少ないところとか。紗依はおっとりとお嬢様気質だったけど。


顔も―――あいつは僕よりも紗依の方に似ている。




僕が望めば、僕は紗依に会えるんだ。忘れるはずがない。



愛した人の忘れ形見を―――…一生」




お父様は私の方ではなく、どこか遠くに視線をやってとつとつと語った。


その表情は黒猫がたまに見せる真剣そうな顔。


やっぱり親子ネコ。


「だったらちゃんと伝えてあげてください。


言わないと伝わらないです。


倭人くん本人に。再婚のこともそう。


結婚は砂糖さんと二人の問題ですが、家族が増えることになるとやっぱり倭人くんにも関わってきます。


きちんと倭人くんに向き合ってください」


出すぎた発言をして申し訳ございません。そういう意味で頭を下げると、


みけネコお父さまはおっとりと笑った。



「そうだね、そうするよ。



やっぱり倭人の家庭教師を―――君に頼んでよかった。



君は他人に無関心そうに見えて、誰よりもちゃんと考えてくれる子だから。



僕たち大人じゃなくて、倭人みたいに子供じゃない。ってそんなこと聞かれたらあいつに怒られるだろうけど。



でもそのバランスが君なんだ。





ありがとう。話し合ってみるよ。二人で」