「……鬼。鬼アサ」


“オニアサ”って…ね…


まぁ鬼ばばぁじゃなくて良かったケド。


黒猫は忌々しそうに唸って額を押さえると、ゆっくりと起き上がり背中を丸めた。


「ほら。さっさと起きる」


準備を急かすように言うと、


「すぐには動けねんだよ」


と黒猫は低い声で呟いて眉間に皺を寄せる。


う゛…いつもにも増して不機嫌だな。


私は吐息をつきながらももう一度グラスに水を注ぎいれ、黒猫に手渡した。


「昨日はあんなに可愛かったのに、起きてるとき私に酷くない?」


いつかの仕返しでそう言ってやると、水を飲んでいた黒猫の表情がそのまま固まった。




「……俺、何かやらかした?ってかなんか変なこと言った?」




さっきの不機嫌そうな顔から一転、大きな目をまばたいて探るように聞いてくる。


この調子じゃ昨日のこと…まったく覚えてないんだな。


またまた意地悪な私はいつかのお返しと言う感じで、


「…覚えてないの?あんた私にキスしてきてベッドに押し倒して


そのあと…あんなことやこんなこと…」


恥じらいのある表情を作ってもじもじ言うと、


黒猫は目を開いたまま硬直。


ま、途中まで事実だけどね。途中からは完全な作り話。


黒猫は自分の手のひらをじっと見つめて


「……覚えてない。ってかそんなオイシイ状況、何で記憶から抜け落ちるんだ」


と真剣。


オイシイって、あんたね…


「思い出せるようにもう一度しよう」


黒猫が真剣な表情で両手を広げて「Come on」と言って手招きしている。




「朝から何しようとしてんのよ。嘘に決まってンでしょ!」





この発情ネコっ!!



私は黒猫の頭をちょっとはたくと、黒猫は


「いってー!!」と喚いて頭を抱えた。