黒猫は浩一の威嚇に、無言で一睨み。黒い大きな瞳をまるで射るように細めてまっすぐ浩一を見据えて、私の手を引いたまま、
「わり。今日はこれで」
とだんすぃ達に謝って歩き出した。
私は黒猫に手を引かれるまま、ついていくしかなかった。
「え!ちょっとアサ…」浩一も驚いて追いかけてきそうだったけど、
「あんたはこっち」と言って涼子に引き止められている。
「ごめん、浩一。また明日大学で」
これじゃどっちが飼い主か分かんないわよ。
「倭人、がんばれよ~」
とだんすぃたちからはやし立てる声が。何をがんばるのよ。
色とりどりのネオンが飾る夜の街―――私の手を引いて先を行く不機嫌黒猫の背中に向かって声を掛けた。
「ちょっと!ねぇ、ちょっとてば…」
「………」
無視。
はい、そーですよね。いつものことですよね。
私が呼びかけてもいつもこいつ返事しないし。
諦めて質問を変えてみる。
「あんた、こんな時間まで何やってたのよ。今日はバイトの日じゃないでしょ?夜遊び?」
「別にどこだっていいだろ?」
黒猫が面倒そうに呟いてゆっくりと振り返る。
ふわり
秋の風に乗って黒い髪が揺れ、
浩一とは違う
柔軟剤と―――お日さまの匂い
が香ってきた。



