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お話しがあるからと言って私が選んだのは、個室のある和食料理店。
駅で黒猫と待ち合わせて二人で行くことになったけど、
「何のコスプレ?」
挨拶もなしに開口一番黒猫は大きなおめめをぱちぱち。
「コスプレじゃない。あんたのお父様にお話しする大事な日だから、しっかりした格好じゃないと」
とぐっと拳を握ると、
「別に普段通りでいいのに」と黒猫がそっけなく言ってまたもぱっと顔を背ける。
黒猫は普段通りグレーのカットソーにジーンズ。上着に黒いパーカー。
何よ。
私だって考えてるんだから。
ジーンズにパーカーだったら失礼だし、かと言ってひらひらふわふわの格好でも心象良くないだろうし。
だからこの格好に行き着いたわけで。
「朝都の分と二人分切符買ってくる。ここで待ってて」
黒猫は言葉も少なめに私とは目を合わせようとはせずに券売機に向かう。
私…やっぱダメかな…
がんばってるのに、空回り?
言われた通りその場で待ってて、ずーんと気落ちしていると、
「おねーさん、一人ぃ?」
急に声を掛けられて、私は顔を上げた。
酔っ払いだろうか、呂律の怪しい二人組みの若い男(サラリーマン風)が声を掛けてきた。
「いえ、ツレがいますので」
あっさりばっさり。
私が券売機に目を向けると、今切符を買ったばかりなのだろう黒猫が吐き出し口から切符を取り出してこちらを振り返る。
「え?ツレって誰よ。男~??おねーさん美人だからモテそうだ♪俺も超好みだし~」
「それらしいのは居ないよね。女子だったら二対二で飲まない?」
いえ…人間の♂です。
それらしいのって…やっぱ私と黒猫じゃ不釣合い??
てかこれって…ナンパって言うのか?
それにしても私なんかをナンパしてくるなんて、相当酔ってる証拠だな。
呆れたように吐息をつくと、
いつも以上に目尻を吊り上げた黒猫がつかつかと歩いてきて、
私の手を取ると、酔っ払いの二人組みを睨み上げた。
「俺の彼女になんか用スか?」



