それでも気を取り直して、こないだ買ったばかりの秋色グロスを唇にのっける。
上品な色の赤色で、少しは大人っぽく見えるかも。
髪も夜会巻きにして纏め上げたし、服装は白いブラウスにからし色のタイトスカート。
濃い茶の細いベルトにブラウンのストール。そして黒いパンプス。
「無難?」鏡を覗き込みながら私が涼子に聞くと、
「別人」と返事がかえってきた。
「いいの。いつもの服装じゃ軽い女でしょ?私は真面目な女子大生!」
「真面目通り越してそれじゃエロいよ。秘書プレイ?」
は!?
エロ…秘書とな!?
「うそ嘘~上品でいいんじゃない?♪」
と涼子は明らかにからかってるし。
「もうっ、これでも私は真剣に!」
と喚きながらお手洗いを出ると、偶然前を通りかかった浩一とばったり鉢合わせ。
「あ、浩一」
声を掛けると、
「は?」と浩一は珍しいものを見るような目つきでしばらく目をぱちぱち。
「浩一、“これ”朝都」
涼子が私の背中をちょっと押して目配せすると、
「は!?朝都?……なんのコスプレ??」
浩一は益々怪訝そうな顔で私をじろじろ。
コスプレ→秘書→エロい……
う゛~~失敗だったかな。
しっかりキメようと思ったのに、益々…イタイケな少年を誑かせたワルい女みたい。
「あ、そだ。浩一こないだ電話くれたよね。
ごめん。返電するの忘れてた。用って何?」
あれから電話も掛かってきてなかったし、大した用ではないだろうけど。
「…ああ、うん。ってか今はいいや…」
浩一は落ち着かない様子でそわそわ視線を逸らせながら、頭の後ろに手を置く。
今はいい。って何だそれ。
それでも
「ヤバっ!時間がない!それじゃね涼子っ!浩一」
私はトレンチコートを羽織ると、慌てて駆け出した。
「健闘を祈る」
涼子がふざけて敬礼の姿勢をして、浩一は何が何だか分からないまま唖然として手を振っている。



