「で?親父に言ってどうするの。あんたクビにされたら。
その先のあてはあるの?」
黒猫は真剣。
あて??
「あてはないけど、まぁバイトぐらい選り好みしなかったらすぐ見つかるでしょ」
「また無理して体壊したらどーすんだよ」
黒猫はちょっとだけ眉を吊り上げて不機嫌そうに私を睨んでくる。
「あれ?私あんたにバーのバイト体調不良で辞めたこと言ったっけ…」
言ってなかった気がするけど。
そう答えると黒猫がはっとなったように目を開いて、慌てて顔を逸らす。
「なんなの、その意味深な反応は」
目を細めて身を乗り出し、思わず黒猫を覗き込むと、黒猫は私の視線から逃れるように視線をキョトキョトと泳がせた。
「何で顔を逸らすのよ」
いつになく挙動不審な黒猫。そわそわと落ち着かない様子で窓の外を気にしていたけど、私が離れていかないことに諦めたのか、
やがて、ゆっくりと顔を戻すと
「何にもないって。ってか離れていかなきゃ
キスすんぞ」
無表情で言われて今度は私が目をぱちぱち。
……でも
「どぅぞー」やれるもんならやってみなさいよ。
こんな公衆の面前で、照れ屋な黒猫がそんな行動に出るわけない。
と言う意味で挑発すると、
ぐい
頭を引き寄せられて、気付いたら黒猫の肩先だった。
あ、お日さまの香り……と認識する間もなく
チュ
前髪に軽いキスが下りてきて、
ーーーー!!!!
私は声にならない叫び声をあげた。



