マンションを出て駅に向かう途中黒猫はようやく手を離してくれた。
「……ごめん」
バツが悪そうに手を引っ込めて俯く黒猫。
「いいけど、どうしたの?」
ちょっと心配そうに黒猫を見上げると、
「親父の歴代カノジョ、朝都みたいなタイプ。
朝都はあいつのど真ん中」
歴代カノジョ。私みたいな……タイプ…??
『それって店長あんたに気があったりして~』
そいやぁ前に涼子がそんなこと言ってたような、言ってないような…
いや、でもでも!だって店長とは20も離れてるんだよ!(若く見えるケド)
そんな大人な男の人が私なんて小娘、相手にするはずないし。
それに、かなりのイケメンでお店の従業員にもお客さんにもモテモテな店長が、わざわざ私を選ばなくても、もっと可愛くて女の子っぽくて優しい子いっぱいいるし。
「それは想い違いだよ」
突飛な発想に私は思わず笑っちゃった。
「あいつの歴代カノジョはみんな朝都みたいなタイプだった。
こう、見た目はふわっとした感じで目が大きくて美人系よりも可愛い系」
ふわっとした感じ!?
「あくまで黙ってりゃの話だけどな」
と黒猫が釘を差す。
何よ、そりゃ喋ったらおっさん丸出しの私だけど。
でも
何だ…みけネコのお父様に私を盗られると思ってたわけね。
それで不機嫌だったのかぁ。
私は黒猫の手をそっと握った。冷たい指先が一瞬にして熱を持ったように温かくなる。
「大丈夫だよ。さっきも言ったけど、
私が好きなのはあんただから―――」
私の言葉を聞いて黒猫が大きな目をぱちぱちさせて、
やがて仏頂面にちょっと赤色を浮かべて私の手をそっと握り返してきた。



