「すみません。気を遣っていただいたのに」
玄関でぺこりと頭を下げると、
「いいって、気にしないで~。また一緒にご飯食べようね~」
黒猫の不機嫌とは反対にこっちはにこにこご機嫌。
さっきのあれは何だったんだ、って思いたいぐらい普通。
「今日はご馳走様でした。それじゃ、おやすみなさい」
「おやすみ~気をつけてね」
扉を閉める間際にちらりと見えた、みけネコお父様が真剣な目で射る様な視線で黒猫の方を捉えていた表情を。
ドキリとして黒猫の方を振り返ると、
パタン
扉は閉まった。
―――
―
「ね、ねぇねぇ。お父様、機嫌悪い?もしかして私たちのこと疑ってるのかな」
不機嫌そうにエレベーターホールを歩く黒猫の背中を慌てて追って問いかけると、
「さぁ。疑ってるかどうかは知らないけど、機嫌悪いのはあるかもな」
とまたもそっけなく返事がかえってくる。
「ど、どーしよう。私、何かやらかした??」
一人あたふたと焦っていると、
「朝都のせいじゃない」
黒猫ははっきりきっぱり。
「じゃぁ何…」
言いかけたとき、黒猫の手が私の手を引き寄せ、私はあっけなく黒猫の腕の中。
「あいつは朝都と二人きりになりたかったんだよ。
そうはさせるかっつうの」
ぎゅっと黒猫に頭を引き寄せられて、ドキドキ…
と言うよりも、
「はぁ?」
私は間抜けな問いかけをしてしまった。



