僅かに腰を浮かせて黒猫に近づくと、私は自ら顔を近づけて
黒猫にキスをした。
黒猫が驚いたように目を開いた気配があって、私が唇を離すと今度は名残惜しそうに黒猫の顔が追いかけてきて、
また私の唇に重なった。
黒猫の手がおずおずと私の腰に回り、遠慮がちに私を引き寄せる。
黒猫との距離が一層近くなって、体と体が密着した。黒猫の胸元にそっと手を置くと、心臓の音が早く打っていた。
「―――“休憩”、する?」
何度目かの口付けの合間にちょっと顔を離して黒猫を見上げ、そっと聞くと、
「泊まっていけば?」
黒猫が答える。
黒猫は頬をピンク色に染めて、それを見られたくないのか私の頭の上に顎を乗せた。
随分そっけない物言いなのに、不器用な手付きでぎゅっと抱き寄せられて、心臓の鼓動が早くなったことに気付いて、
黒猫もドキドキしてるんだなぁ。
って、感じた。
どこまでも可愛い―――私の黒猫。
「泊まるって…今日お父様は?」
「業者の打ち合わせとかで神戸に出張。帰ってこないよ」
私の耳ら辺の髪を掻きあげながら、黒猫がそっと私の耳元で囁く。
可愛いと思ったばかりなのに、
低く響く“男”の声に―――ドキリ、と心臓が波打ち、
そのふしにさっき私がタバコを吸っていたベランダの外の景色が目に映った。
さっきまで薄い紫色のベールを被っていた空は、今は深い瑠璃色に変わっていて空にはぽっかりと白い月が浮かんでいた。
いつの間にか夕暮れから、夜に変わっていたのだ。
それはまるで、恋人たちの甘い時間の訪れを
表わしているように思えた。



