「キスしたんでしょ?」


確認のために聞くと、涼子はまたものんびりした手付きでワインのグラスを傾けた。


「まぁー正直驚いた。ずっと好きだったって言われて、戸惑った。


ケドさぁ。何かピンとこないのよね」


「ピンとこないって……最初はそんなものでしょ。キスはきっかけに過ぎないんだから」


私はちょっと変わった種類のチーズをかじりながら、頬杖をついて前を向いた。


がんばれ溝口さん!あと一歩だよっ!



「まぁね。昔とは違うよね。それこそうちらが高校生のときはキスしたら大ごとでさ。


結婚しちゃうかも♪なんて浮かれてたことがあった。


でも歳を取ると、あんなにどうでもいいところでサラっとできちゃうもんなんだ。


そしてそれに対して何も思わないんだ~って実感しちゃってさ」


まぁキスぐらいで将来を決めちゃう、みたいな青春時代はいつの間にか過ぎ去っていっちゃったわけで。


でも過ぎ去った感情を、いつも黒猫は呼び戻してくれる。


ドキドキしたり、きゅんきゅんしたり。



だけど同時に不安になる。


黒猫も今、そーゆう時期なんじゃないかって。


つまりは思春期ってヤツ??


いっときの感情で、盛り上がってるだけとか。


いやいや、朝都!黒猫を信じないとダメよ!!


と、心の中で自問自答するもそんなの今考えてもしょうがないし。


「でも、どうでもいいところってどこでしたのよ」


ちょっと気になって聞いてみると、


「駅のホーム。ちょうど来てた電車に乗ろうとしたら、後ろをついてきた溝口さんにぐいって腕引っ張られて。


目の前で電車が発車とともにチュー…」


溝口さん!


「何てロマンチック…てか強引ね」


「ロマンチックゥ??まぁそうかもしれないケド


私はあんたらみたいなカップルにちょっと憧れるって言うか、




黒猫くんの純粋だけど一生懸命な愛し方に



忘れかけていた何かを思い出すって言うかサ。



青春してんな~って感じ。あれを味わいたい気がするの。



ま、かといって高校生は私には無理だけど」




涼子は目を伏せてワインを飲み込んだ。