―――いや、ダメでしょ。やっぱり。
「あのさぁ、お前猫には発情期ってもんがあるの。知ってる?
ただ単にヤりたいだけだろ」
と浩一はちょっと視線を険しくさせて、私を睨んできた。
は…発情期とな!
まぁ考えたらそうかもしれない。目的はそうじゃないかもしれないけど、
彼はまだ若いし、身近に居る年上女が珍しかっただけじゃないのだろうか。
―――錯覚、思い込み。
きっとそうだよ。
だけどそう思えば思うほど、
私の頭の中では昨日まで居なかった黒猫が棲みついて離れない。
ごろごろ喉を鳴らしてじゃれてくるかと思いきや、その爪で思い切り引っかく。
私は無意識のうちにタバコを取り出した。
「なに、禁煙したんじゃなかったの?」
涼子が呆れたように目を細める。
「……当分は無理そう」
はぁ
煙と一緒にため息を吐き出した。
「カテキョの契約、まだ半年残ってるし、どうしよう…」
「辞めりゃいいじゃん、そんなの」とそっけなく言う浩一。
何なの、あんた。さっきから攻撃的ね。
「途中で投げ出すとか、無責任じゃん」
それこそ拾った捨て猫を、また捨てるのと一緒。
「そもそも何でカテキョのバイトなんてはじめたの?あんたバーで働いてなかったっけ?」
涼子の言葉に、私はまたも煙を長々と吐き出した。
「黒猫のお父さん、お店の経営者なの。私はそこのバーで働いてたんだけどね、夜中まで働いてるし、お客さんにいっぱいお酒飲まされるし…そもそも私洋酒って苦手なのよ。
ちょっと体を壊したら、家庭教師のバイトなら大丈夫かってわざわざ取り計らってくれたのよ。
一人暮らしだし、仕送りだけじゃやっぱり生活できないし…」
と言っても現在大学四年生の私が卒業するまでの間だケド。
「へぇ。やっさし~」
涼子はからかうように言ったけど、すぐに表情を変えた。
「その店長さん、あんたに気があったりして??」



