「猫を飼ってると思えばいいのよ」



独り言を漏らす。


私より五歳年下の高校生なくせに背だけはひょろりと高くて、無愛想で生意気で、私に全然懐かない黒猫。


目が合うと、いっつもそっけなく視線を逸らすし、私が黒猫の方を見てないときは睨むようにじっと見てくるし。


「飼いたくて飼ってんじゃないわよ?押し付けられたの」


またも独り言。


家庭教師なんて体のいい監視役よね。相手があの黒猫だって知ってたら引き受けなかった。


私の独り言はマンションから見下ろす夜景に吸い込まれて、風にさらわれて誰にも届かない。


勉強の休憩時間、私はバルコニーの手摺に頬杖をつきながら、タバコをくゆらせていた。紫色の煙が落ちていく陽の光と溶け合って空を不思議な色に染め上げている。


「なあ」声を掛けられても私は振り向かなかった。


声の主は私が家庭教師をしている相手、高校二年生の“黒猫”名前はちゃんとあるわよ?


男の子のかっこしてるけど、私には黒猫にしか見えない。


イマドキ珍しい黒髪だから“黒猫”。でも悔しいほどその髪の色が似合ってる。


良くあるじゃない?『家庭教師とその生徒の危ない関係』『先生が色々教えてあげるわ』





ないない。