翌朝、梅雨の中休みか雲の切れ目から太陽が覗いていた。

毎朝五時半にアラームを止める。
たまに松屋駅から始発が動き出した途端、目が覚めてしまうこともあるけれど。
布団の中でしばらくぼーっとして、ごく軽いストレッチをしてからようやく起き上がる。

今日もバタバタと顔を洗って化粧すると、通勤にしてはややラフなカットソーと裾の絞ってあるベージュのパンツに着替えて家を出た。


やっぱり、朝はあまり余裕がない。
走って三十秒もかからないはずなのに、駅のホームに上がってすぐ電車が滑り込んできた。
乗り遅れることはほとんどないのだけど、いつもこの調子だ。

午前六時二十七分発向田行きの電車は、座席が埋まっているのは七割ほどでまず間違いなく座れる。

それでも、私はいつもドア付近に立つ。
どうせオフィスに着けば、取材や外での打ち合わせがない限りずっと座りっぱなしだし、座るとうつらうつらまた眠ってしまいそうになるから。

それに何より、窓からぼんやりと外の景色を眺めているのが好きだった。
空の雲の動きをただ目で追うのもいいし、朝の表情を見せる街並みをじっくり観察するのもいい。

でもその前に、電車が揺れ始めてまず自然と目に入る建物、それが『ラヴィアンローズ』だ。

住人であることもあって、つい注意深く見つめてしまう。
毎日見ていたってそう変わらないのに、いつも。


あっ、でも、昨日はちょっと不思議なことがあったんだっけ。
そう思い出しながら、はっとした。
一瞬、心臓がひやっとして震えた。

『ラヴィアンローズ』が視界に入って来ると、今朝も昨日と同じ男性がベランダにいて、しかもまた目が合ったから。

どうして?
また表情も変えず、瞬きすらせずに私をじっと見つめてきた。
別に対抗するわけじゃないけど、つい私も同じように見つめ返してしまう。

こんな偶然ってあるんだな。