「エリサ…私…明日帰ります…」

「リーズ様!
サリー様に言われたことを気にしておいでなのですか?」

「そうじゃないわ…ただ、私がいたらお邪魔なようなので…」

「何をおっしゃってるんです!
レヴ様達はリーズ様のことを邪魔だなんて思ってはいらっしゃいませんわ。
皆さん、リーズ様にはとても優しくして下さってるじゃありませんか!」

「それが申し訳ないのです……
私なんかのために、皆様に気を遣わせてしまってることが…」

その時、誰かが扉をノックする音が部屋に響いた。



「はい。どなたでしょうか?」

「レヴです。」

「まぁ、レヴ様…!」

レヴが来た事を知ってリーズは焦る。



「エリサ、待って!」

その言葉を言い終わらないうちに、エリサはドアを開けていた。



「まぁ、ヴェール様も…」

「遅い時間に申し訳ありません。」

「いえいえ、リーズ様はふだんからけっこう夜更かしなのですよ。
早くお休みになるよう申し上げても、ちっとも聞いて下さらないのです。」

「エリサッ!」

「私は、お茶の用意を…」

「エリサ…!!」

エリサはさっさと席を離れていった。



(あぁ、どうしましょう…レヴ様は、私に一体何のお話がおありなのかしら…?)



「リーズさん…先ほどは大変申し訳ないことをしてしまいました。」

「えっ?」

「リーズさん…サリーさんは多少口が悪い所はありますが、根は本当に良い方なんですよ。」

「…………」

「以前、ジネットさんが旅の仲間に加わった頃も、ぎくしゃくしてしまったのです。
彼女は打ち解けるまで時間のかかるタイプ…と、でもいいますか…
特に女性とはそうなるようなのですが、決して悪意があるわけではないのです。
だからと言って、あなたを不快な想いにさせたことには変わりはないのですが…
どうか、許してやってほしい…」

「私からもお願いします。」

「そんな…
レヴ様もヴェールさんもそんなことおっしゃらないで下さい。
私は何も不快な想いなんてしてません!
もっとお料理の腕を磨いてサリーさんに喜んでもらわないといけない!…なんて、考えてたんですよ!」

リーズが無理をしていることは、ヴェールやレヴにもよくわかっていた。
だからこそ、その強がりを二人はあえて受け入れた。



「そうだったんですか。
では、うちに着いたら、シェフに料理を教えてもらうのもいいかもしれませんよ。
うちのシェフの料理をサリーはすごく気に入っているのです。」

「私…頑張ります!」

「リーズさん…もしなにかあったらレヴさんに相談されると良いですよ。
こう見えてもレヴさんはとても頼りになる方ですから…」

「ヴェール…『こう見えても』とはどういうことだ…?」

「あ…失言でしたね…!」

微笑み合う二人が、リーズにはまるで兄弟のように見えた。



「レヴ様はご兄弟はいらっしゃらないんですよね?」

「…ええ…いませんが…」

「あ…突然変なことを聞いてすみません。
まるで、お二人がご兄弟のように見えたものですから…」

「…不思議とよくそんなことを言われるのですよ…」

レヴとヴェールは再び、顔を見合わせて微笑んだ。