女性は微かに眉を寄せると、椅子に座り直した。
「……葛西さんから話は聞いてました」
女性の言葉に、ホッと安堵の息を吐いた。こんな童顔の私が妻だって信じられないのは承知してるけど。本社ビルでの出来事で葛西さんがきちんと周りに知らせてくれたという事実は心強い。
「でも、おかしくないですか? どうして結婚しながら伊織さんが倒れるんです?」
静かでいながら、こちらを責める尖った声で女性は非難を始める。
「妻なら、夫の体調管理をして常にベストコンディションに持っていくのは当然じゃないんですか? それとも何ですか。家のことも夫のことも、全て代行サービスに丸投げで。どうでもよかったと? あなたは伊織さんのお金で遊び歩いてたから、気づくヒマもなかったという訳ですか」
女性の口から次々と飛び出す言葉はあまりに理不尽で、謂われなき非難だった。
だけど……
現実に、伊織さんは倒れた。
私がもっとちゃんとしていれば。もっと気をつけていれば、きっと倒れることはなかった。
じわりと滲む涙をゴシゴシと手のひらで拭うと、私は椅子から立ち上がって彼女に向けて頭を下げた。
「ごめんなさい……その通りです。私がちゃんとしていれば伊織さんは倒れたりしなかった。私は……妻失格です。でも……言い訳するつもりはありませんけど……私は、今まで家族と縁が薄くて。妻というものはどういうものかわからないんです。お願いします! どうかバカな私に教えてくださいませんか?妻や家族がどういうものなのか」



