「どうぞ、入ってください」
「はい、お邪魔します」
女性に促されて頭を軽く下げてから足を踏み入れる。
(なんか……おかしい? 私は伊織さんの妻なのに……なんでこんなに遠慮しないといけないんだろう)
でも、もしもこのひとが伊織さんの部下でもきっと結婚の事実は知らないはず。葛西さんもまだプレスに発表してないって言ってたし。
戸惑いつつ伊織さんの横たわるベッドに近づく。
彼は、眠ってた。
(初めて見た……伊織さんの寝顔)
それは本当なら嬉しいことなのに、今はただ悲しい。彼が気を許してくれたからでなく、倒れた末での出来事だから。
(やっぱりやつれてる……クマもすごいし……無理にでも休ませればよかった)
なんとなく出会った当初より痩せたな、とは感じてた。でも、彼にどうしてか訊いてもいつもはね除けられるばかりで。取り付くしまもない。一度思い切って休んでください、と言ったら。その後10日間ひと言も口を聞かず顔も合わせなかった。
だから、どうしようもないって半ば諦めてたけど。
こんなことになるなら、もっと早く葛西さんに相談すればよかった。
激しい後悔の念が心を苛む。じわりと熱いものが目尻からこぼれそうになった。
「こちらへお掛けになって。お茶でもどうぞ」
「あ、すみません」
仕切りを閉めた女性が椅子を勧めてくれたから、慌てて丸い椅子に腰を下ろす。彼女が淹れたお茶の湯飲みを持つと、自然と向き合う形となった。



