契約結婚の終わらせかた




「よし、これにしよっと」


一通り中身を確かめた私は、レシピ本を手にしてからふと気づく。


「わ……今ってこんなにいろんなレシピ本が出てるんだ」


平積みされた話題のタレント本や、ベストセラーになってるお料理の基礎本、お弁当や時短おかず、缶詰のアレンジレシピ。


想像以上にたくさんの種類がある本は、見てるだけで楽しい。


「へえ……こんなのもあるんだ」


3つ星シェフの家庭で本格フレンチ、だなんて。


(いつか伊織さんに食べさせてあげられたらなあ)


美帆さんの指摘で伊織さんは味覚障害なのかという疑惑を抱いたけど、ぶんぶんと頭を振って否定した。


(ううん……伊織さんはきっとトラウマで食べられないんだ。きっと深く傷ついてるから)


それでも、少しだけ彼は前進した。あれがきっかけで野菜プリンも半分まで食べられるようになってる。


そろそろ次の段階にと考えてはいるけれど、お菓子のレシピが少ない私にはどうして良いかわからない。


これはデリケートな問題であるから、おいそれと他人に喋れない。だから、相談も難しいんだよね。


はぁ、とため息をついてお菓子のレシピを捲る。


そこで――あるものに目が留まり、そのページをジッと見入った。


(これ……! これだよ。これならきっと伊織さんに食べてもらえる)


目から鱗のレシピを載せた本は1000円もしたけど、明日のからのご飯を節約することで何とか買う決意が出来た。