「まったく、軟弱な男だね。酔って雨に打たれたくらいで寝込むとは」
「おばあちゃん、病人にそれはないでしょう」
見知らぬ他人だろうが、おばあちゃんの口の悪さは健在だ。でも、夜中に知らない男性を連れ帰ったのに、文句を言いながら布団を敷いてくれたのだから。根は優しいんだよね。
今も、水を張った桶を手にしてる。私が氷を砕いて氷のうを作ってる間、看ててくれたんだ。
だけど、作り上げた氷のうを持って部屋に戻った時。忘れられない光景を見た。
おばあちゃんが……男性の乱れた前髪をかきあげて、目を細めながら何かを呟いてたから。
なんだろう? 気になることでもあったのかな……と思いながら、鼓動が嫌な音を立てるのを感じた。
(ううん、きっと気のせい。おばあちゃんも心配なだけ……だって、全然知らない人のはずだし)
うん、だって顔見知りなら少なくともおばあちゃんは名前を呼ぶ。最初に彼を見たとき、おばあちゃんは何の反応もしなかった。だから……。
(おばあちゃん……お願いだから、私の居場所をなくさないでね)
私とおばあちゃんの、人に言わない秘密が胸を苛む。本当なら、私はここに居てはいけないのかもしれない……でも。
ぶんぶんと首を左右にふり、気を取り直す。
(ダメダメ、暗いことを考えない。いつも心に晴れ間を作るために……前向きに考えなきゃ。まずはあの人がよくなるよう頑張ろう)



