契約結婚の終わらせかた




(食べてくれた……伊織さんが。いつものプリン以外を、ちゃんと食べてくれた)


それは、不思議と今までの人生で一番嬉しい出来事だった。


だって、あれだけ私を冷たく拒絶してきた伊織さんが。プリンと栄養補助食品以外は食べなかった伊織さんが。根負けしたとはいえ、初めて自発的に私の作ったものを食べてくれたんだ。


(すごく……うれしい)


春の日みたいに、胸がぽかぽかと温かくなる。気分が浮き立って、思わず鼻歌が出てたら。

「なに浮かれてんだい、気色悪い顔を晒してる暇があれば帳簿をまとめといで」


おはる屋で店番をしてたらおばあちゃんに伝票類を押し付けられた上、奥の和室に追いやられてしまいました。


「別に、浮かれてなんていないんだけどな」


一人で文句を言いながら仕入れ伝票と向き合う。売り上げ伝票はこの後でやればいっか、と電卓を叩きながら。昨日の伊織さんの様子が頭からちらついて離れない。かわいかったな~なんて思い出すたびに忍び笑いをしてた。


「碧! あんたは懲りてないね。子ども達が“今日の碧姉ちゃん怖い”って泣いてて商売あがったりだ。気味悪いニヤニヤ笑いを止めな!」

「ええっ……ちょっと、そんなつもりないんだけど」

「お黙り! 不気味なツラをそれ以上人様に見せるんじゃないよ。罰として今日はお小遣いなしだからね」


ピシャリ、とガラス戸を閉めたおばあちゃんは本気で怒ってた。子ども達が泣くほどって……そんなにひどい? と鏡を見て納得した。


「うわぁ、何このだらしない顔」


パンパン! と頬を叩いて気合いを入れ直す。 もっと伊織さんの食生活をよくするために、頑張らなきゃ。