「はい」
「離婚されても、か? 言っておくが借用書は私にある。離婚後すぐに働いて返済を始めてもらうが?」
立て替えられた借金のことで脅されれば、グッと言葉に詰まる。だけど、私は今すぐ身一つで放り投げられたって構わない。そんな中途半端な気持ちで伊織さんを変えたい訳じゃないんだから。
「か、構いません! 離婚くらいで怯むつもりはありませんから」
両手を握りしめてぐぐっと視線に力を込める。ドクドクと鼓動は高鳴るばかりで、額からも冷や汗が流れた。必死で震えを堪えていると、伊織さんの大きなため息がリビングに響く。
「……まったく……意味がわからないな。なぜ、オレの食生活に関わろうとする?」
「それは……わ、私が……あなたの妻だから、です。妻なら、夫の体調管理も大切な仕事だから」
「………」
おずおずと言い訳をしてみると、伊織さんは野菜プリンに目を落としてしばらく眺める。見入ったもののうち、黄金色――かぼちゃのプリン――を手元に引き寄せると、「スプーンは」と不機嫌そうに言う。
慌てて彼専用のシルバースプーンを出して手渡すと、スプーンの先っぽでかぼちゃプリンを掬う。しばらく睨み付けてから、ゆっくりとそれを口にした。
「……まずい」
本当にまずいのか、顔をしかめた伊織さんだけど。グラスのかぼちゃプリンを30分かけて3の1だけ食べてくれたから、後で普通のプリンを出してあげたら。それはものの一分で完食してた。



