契約結婚の終わらせかた





「ね、見た? 三番テーブルのイケメン!」


ホールも一段落したからか、バイトちゃん達のお喋りが注文口から聴こえてきた。


「うん、さっきバッシングの時に見た! すっごいイケメンだよね。芸能人かな?」

「まさか~こんな地方に来るわけないじゃん! だけど、30分かかって注文したのがぜんぶプリンって、一人でそれはちょっとひくかも……」


(イケメンって男性? 男の人がプリンばっかり注文したんだ。やっぱり変わってるな)


「だけどさ~なんかあの人酔ってない?」

「あ、それなら亜紀さ、お持ち帰りすりゃいいんじゃね? プリン大好きでもイケメンやし、オーダーメイドスーツだから金持ちだよ。上手く既成事実作れば就活必要ないじゃん!セレブだよセレブ」

「さっすが美紀、ファッション関係詳しいやね~って、アタシ酔っ払いキライだからパスだわ」

「こら! いつまでしゃべってる。暇ならダスターの洗濯でもしてこい」


きゃいきゃいした中で店長の怒声が飛んでくると、彼女達ははぁい、と渋々散っていった。


(プリン好きな酔っ払いのイケメンさんか……)


私も見たい気もしたけど、今は厨房から離れられない。だけど、意外なことで彼が私の中に印象つけられた。


オーダーした品がほぼ丸ごと残されて戻って来たからだ。まるで、ちょっとずつ試食したような形で。


(せっかくの食べ物をこれだけ残すなんて)


何だか、腹が立って仕方なかった。