「あ、そうだ! ぼく忘れ~て~た~! ちょっと~近くに~用事があったんだぁ~」
唐突に、葛西さんが手を鳴らして大声を上げた。
何かわざとらしいと思います……歌うように発言した上に、顔がニマニマしてますよ。
「伊織~ちゃんと碧ちゃんを、マンションまで送ってから会社に戻れよ~車は置いてくから~じゃな!」
しゅば! と片手を上げた葛西さんは白い歯を無駄に輝かせ、アバヨ~と爽やかに走り去った。
「…………」
絶句した私は、その場で呆然と立ち尽くしてた。葛西さんの行動はいろんな意味で突っ込みたい気はしますが……。
それより今は伊織さんと2人っきりという、考えもしなかったシチュエーションに頭がパニックになりかけてた。
(葛西さんの薄情者!伊織さんの扱いは私にはまだ難しいのに)
内心で泣き言を呟くけど、そういえば。今までなにかあれば葛西さんが助け船を出してくれてたから、ついつい頼ってしまっていたんだな。と今更ながら気づく。
(そうだった……申し出たのは私なんだから、ちゃんと伊織さんと接しないと。いつまでも人任せじゃダメだ)
正直、怖い気持ちはある。いつだって伊織さんは私を拒んできた。その頑なさが解ける日が来るのか信じられないほどの冷たさだけど、人間いつもいつもそうやって拒絶ばかりしていては寂しい。
私は、伊織さんにも少しは人の暖かさに触れて欲しい。なんとなくそう思ってた。



