「わ~こんなに咲いてる場所が市内にあったなんてね。近いうちにくるみと千尋を連れてきたいな」
昨日と同じように藤棚のベンチに座ったけど、感嘆の声を上げたのは葛西さんだけ。伊織さんは不機嫌なまま、ジッと空を睨んでるだけ。
仕事に使うスマホやタブレットは葛西さんに取り上げられたから、手持ちぶさたなんだろう。なら、と私は抱えていたバスケットを開いて2人の前に差し出した。
「あ、あの……よかったらこれ……どうぞ」
バスケットの中に詰めたのは、サンドイッチとフルーツとプリン。サンドイッチは重くならないように野菜を多目にして、食べやすいよう一口サイズにした。
ペーストの野菜をベースにアンチョビを挟んだり。卵もマヨネーズで和えずに塩だけにしたり。
朝から四苦八苦しながら工夫して、伊織さんが食べられるものをと思ってたんだけど。
「お~うまそう!食べていいの?」
「はい、あまり自信はありませんけど。よかったら……」
おずおずと顔を上げると、葛西さんは両手でサンドイッチをつかむと早速かぶりつく。
「うま! これ、すごい美味いよ」
「は……はい、ありがとうございます」
葛西さんの賛辞に適当な相づちを打ちながら、ちらちらと伊織さんを見る。
「伊織、せっかく作ってくれたんなら何か食えよ」
葛西さんにせっつかれた伊織さんは、大きなため息をついてバスケットに手を伸ばす。
いよいよ食べてもらえる? と緊張したけど。
伊織さんが手に取ったのは、プリンが入ったガラス容器だった。



