契約結婚の終わらせかた






「……なんでおまえがここにいる?」


次の日、公園の待ち合わせ場所に現れた伊織さんは、開口一番にこう言った。


私が葛西さんに頼み込んだのは、伊織さんに藤を見せたいってこと。


昨日青空の下で見た薄い紫色がすごく綺麗で。今しか見られない景色を、少しでも伊織さんに見て欲しいって思ったから。


今日はあいにく雲が多いけど時折青空が覗くし、雲間から漏れる光が綺麗だった。


「あ、あの……すみません、私がわがままを言ってしまったんです。伊織さんに藤を見ていただきたいって……今が一番綺麗な時期ですから」


不機嫌さを増した伊織さんの眉間のシワが深くなってる。慌てて頭を下げてから、謝っておいた。


「ムダな時間を過ごすヒマはない」


案の定伊織さんはその場で踵を返そうとしたけど、その前に葛西さんが立ち塞がった。彼は伊織さんより10センチは背が低いけど、笑顔の威圧感が半端ない。


「伊織くん? ぼく言ったよね? この用事が済むまで次の書類を渡さないって。きみ、承諾したでしょ? 社長なのにそんなにあっさり約束を反故にするんだ~へ~え?」


そして、追加でニコッと笑ってとんでもないことをおっしゃいました。


「そんないい加減な人間を社長になんて据えてられないな~? キミを社長どころか会社から追い出すの、簡単なんだけど? 心血注いできた5年目のプロジェクト、チャンスを潰したいのかな?」


葛西さんの脅しを聞いた伊織さんは、あからさまに嫌そうな顔で盛大なため息を吐いて私を見た。


「で、どこへ行く? さっさと案内しろ」