その日の夜、おはる屋から帰った私は葛西さんに電話をかけた。
葛西さんは伊織さんの秘書を勤めて3年だけど、どうやら大学が同じの学友だったみたいだ。
伊織さんと葛西さん他数人が在学中に始めたビジネスがヒットし、小さな会社を創業。今年は創立13年目で、最近本社ビルを買い取ったとか聞いた。
伊織さんはどこぞの御曹司だけど、家族とは絶縁してるらしい。以上は必要最低限の知識として葛西さんから教えてもらった。
葛西さん自身は数年前に結婚をして幼い娘が一人いるらしい。だから、そんな幸せを伊織さんにも味わって欲しいとこぼしてたけど。私では無理かもしれない。
でも……。
何もしないで諦めるよりは、当たって砕けろ精神で。チャレンジして後悔した方がずっといい。
『そりゃ、いいね!』
私の話を聞いた葛西さんは楽しそうに同意してくれた。
『早速スケジュールを調整するよ。あのワーカーホリックが過労死する前に休ませるのも秘書の務めだからね』
「あの……本当にお仕事大丈夫なんですか?影響があってご迷惑でしたら」
『平気、平気! あのバカはもう少し有能な部下を信用すべきなんだよ。下っ端の仕事まで抱え込む癖が抜けてないから。
何とか騙して連れてくから心配しないで』
葛西さんの軽い調子に若干不安を抱きつつ、お願いしますと頼んで電話を切った。



