「ごめんなさい……私、何も知らないのに」
「ああ、いいのいいの! こっちこそごめんね。せっかく親切で言ってくれたのに」
ポンポン、と私の肩を叩いてアハハと笑う佐藤さん。何だかさっぱりした気性の人だなあ……って。たぶん、彼女は裏表がないストレートな性格なんだろう。
だから、かもしれない。
今まで吐き出す場が無かったやるせない想いがポロリとこぼれたのは。
「あの……佐藤さん」
「佐藤だなんて他人行儀な。わたしと碧ちゃんの仲じゃない! 美帆って呼んでよ」
初めていただいたジャスミンティーの鮮烈な芳香が、鼻をついて心のフタを微かに動かす。
じゃあ美帆さんで、と呼び直した私は――ポロリとこぼした。
「……男性が……他人行儀なのに同居するって……どうしてでしょうか?」
「それが、碧ちゃんの悩みのタネか……う~ん」
佐藤さんはアンティークの椅子の上で腕を組み、唸った後に指を差し出した。
「ひとつ、相手を好きだけど言い出せなくて。
ふたつ、同居によるメリットがあるから。
みっつ……気まぐれかキープのため……わたしが思いつくのはこれくらいかなあ。1以外は最低やね」
美帆さんは腕を組んで唸るけど、パッと私の方を見てガシッと肩を掴んできた。
「まさか……碧ちゃん、そんな状況なの? それで悩んでるの?」
ずいずいっと顔を近づかれ、あまりの迫力にたじろぎながらも、何とか首を横に振った。
「ち、違います! 今読んでるマンガでそういうシチュエーションがあって……どうなのかなって思っただけですから」
まさか、本当に契約結婚をしただなんて。言えるはずもなかった。



