おばあちゃんとはいつも通りの店番を約束したけど、それ以外に変わったことと言えば、帰る場所がマンションになったこと。
それも、市内じゃ一等地の川沿いのマンションは30階建てで、伊織さんと住む部屋は最上階にある。葛西さん曰く、今回の為に購入した新築みたいだけど。
(それも意味がわからないな……もしかしたら離婚の慰謝料のひとつとして買ったのかもしれないけれど)
伊織さんは32歳で会社社長をしているらしいけど、詳しくは教えてもらえなかった。必要ないからって。
それで寂しくなるのは、伊織さんに言わせればわがままになるの?
はぁ、と思わずため息が出る。綺麗なガラス工芸を目の前にしてるのに、気分は沈むばかり。これから1年本当に上手くやっていけるのか自信がない。
「あらあら、もしかすると気に入らないかしら?」
「え?」
ハッと顔を上げると、いつの間にかエプロン姿の店員さんが、商品棚の前で笑ってた。そこでやっと、気づいた。
商品の前で暗い顔をした挙げ句、重いため息なんて着いたら営業妨害になるんじゃないかって。
「すみません! あの……別に、商品が気に入らないとかでなくて……今のため息は個人的な問題なので……」
手を振りながらわたわたと言い訳を始めると、店員さんはなぜかプッと噴き出した。
「ふふ、そんなに焦らなくともいいですよ。そうだ、今ちょうどお茶を淹れたんです。よかったらいかがですか?」
にっこり、と音が立ちそうな笑顔で、店員さんは私の手を掴んだ。



