そして、契約にまたプリンのことがある意味がわからない。
どれだけプリンが好きなんだろう? 理由を訊こうとしたけど、見事なまでに拒まれてる空気を醸し出されて。訊けるはずもなくて。
(別に、プリンが食べたいだけならいつでも作ってあげるのにな……)
一緒に住む、夫婦のはずの他人――。
いいえ、きっと。何の縁もない赤の他人同士の方がまだ温かな絆を期待できる。
それなのに……私と伊織さんは、他人より遠い別人夫婦。たぶん、仮面夫婦ってやつだと思うけど。妻としての仕事や義務を一切取り上げられ、家でも話しかけられないって……。
一緒に住む意味、本当にあるの?
意味が解らなくて、それでも私は伊織さんに逆らう訳にはいかない。だから、どんな条件でも黙って頷くしかなかった。
借金は昨日、利子を含めてすべてが清算された。私の希望で伊織さんには、借用書を書いてもらってる。
(600万……1年後……働き始めたら何とかして伊織さんに返そう)
何だかんだ言って、伊織さんは私とおばあちゃんを助けてくれた救世主だ。だから、どうせ一緒に住むなら……なにか役に立ちたかった。
月に50万の生活費は家庭のものでなく、私個人のものらしい。私名義の口座に振り込まれると葛西さんから説明があった。
給料のようなものだと思えばいい、と葛西さんは言ってたけど。そんな高いお金は必要ない。
駄菓子屋の店番でおばあちゃんがバイト代をくれるようになったから、何とかその範囲でやりくりするつもりだった。



