契約結婚の終わらせかた





「碧、碧! 口がかわいたから茶を淹れとくれ!それから洗濯物を入れて風呂を沸かした後に飯を作りな!」


ガラス戸を隔てた奥の部屋から、嗄れた声が飛んできた。


「はい、今やるから待ってて!」


負けない大きな声で返事をすると、買い物に来た子ども達に「ごめんね」と謝ってからサンダルを脱いで框(かまち)を上がる。


「碧お姉ちゃんも、いつまであんな意地悪なおばあちゃんといっしょにいるの? お姉ちゃんもまだまだ若いんだしさ。ここにいたらジンセイ棒に振るよ?」


そんな大人びたことを言う心愛ちゃんからすれば、不思議なんだろうな。端から見れば、私がおばあちゃんに一方的にこき使われて見えるだけだろうし。


「ううん、別にいいんだよ。だって、私はおばあちゃんが大好きだから」

「碧! いつまでぐずぐずしてるんだい。いつまでもどんくさいトロい子だねえ、さっさと奥に行きな!」

「は~い!」


ガラス戸が開いて割烹着を着て白髪を結い上げたおばあちゃんが顔を出したから、返事をして入れ替わりで奥へ向かう。


「子どもにちょっと褒められたからって、いい気になるんじゃないよ。あんたは不器量なんだから、もっと人様の役に立つことを覚えな!」


あら、聴こえてたのねとぺろっと舌を出す。おばあちゃんには見えないように。


「はい、わかってますって! 私だって、自分のことはよ~くわきまえてます」


トン、と畳の上に立つとちょっとだけ目の奥が熱くなる。


わかってる――おばあちゃんは心配してわざとキツイことを言ってくれてるって。 私が決して美人でないことも、二十歳になった今まで恋愛経験がないことも、ぜんぶ。