『そんな私を変えてくれたのが、彼女です』
伊織さんは私をまっすぐに見つめたまま――壇上をゆっくりと降りてくる。
そして、私へ向かって歩み寄る彼に譲るように人混みが割れて、伊織さんと私の視線が結ばれる。
何の迷いもなく私の元までやって来た伊織さんは、私の右手を掴むとそのまま手を引いてゆっくりもと来た道を戻る。
そして――
『紹介します。私の妻の、和泉 碧です。彼女が私のトラウマを癒し、人間らしさを取り戻させてくれました』
多くのマスコミ·著名人·お偉いさんを前に、伊織さんははっきりと宣言した。
とても、とても誇らしげに。
『彼女がいなければ、今の私はいません。彼女がいなければ私は私としていられない。ですから――私は彼女以外を妻に迎えるつもりなど毛頭もない。
一部のマスコミは無責任な噂は存じてますが、事実無根であることを申し上げておきます』
そして――
伊織さんはマイクを隣のあずささんに預けると、突然私を抱き上げた。
「あずさ、後は頼んだ」
「はあい、行ってらっしゃい! 頑張ってねえ」
投げキッスまでしたあずささんは、イタズラめいたウインクまでしてきて。唖然とするしかない。
着物姿の私をお姫様抱っこした伊織さんは、そのまま会場を出て車へ乗り込む。
唖然としていた私も、ようやく頭が動いて伊織さんに訊ねることができた。
「ど、どこへ? それにパーティーは」
「見せたいものがある。パーティーよりよほど大切なものだ」
唯我独尊な伊織さんはあくまでもマイペースで、それ以来黙ったまま車を運転し一路どこかへ向かう。
そして着いた先は、意外な場所だった。



