契約結婚の終わらせかた





私は人と人の間を移動しながら、伊織さんの語りが胸にジンと沁みた。


きっと、伊織さんはお母様を許してる。このパーティーの招待状を送ったというのがその証明だ。会いたくなければわざわざ送ったりしないだろう。


『母は、母なりに精一杯私を守ろうとしてきました。ですが、忙しすぎて完全に見守るのは不可能だった。
なぜか? それは、経済的な事情で長時間働かねばならなかったからです』


そして伊織さんは周囲を暗くさせると、スクリーンを使い映し出したのは『おはる屋』だった。


つい最近マスコミに取り上げられたこともあるから、これはとざわめきが広がる。 伊織さんはその写真を示しながら、店内の様子もスライドさせて表示した。


『これは、とある駄菓子屋のひとつです。畳敷きの和室や広場やベンチがあり、子ども達が自由に利用できるようになっています。放課後の子ども達が集まり、それぞれ自主的に活動している様子が見てとれるかと思います』


伊織さんがどうしていきなりおはる屋のことを出すのかがわからない。衝撃的な告白の次に駄菓子屋を出すのはなぜ? と首を捻ると、伊織さんが具体的な答えを出した。


『昭和世代の方々には当然で、さほど珍しい光景ではないでしょう。しかし、今はむしろ珍しい光景となりつつあるのが現状です。
地域のコミュニティ力が低下し、顔も知らない隣人が増え人と人との繋がりが希薄になっている現代。子ども達の安全な遊び場、集団で遊ぶことで学べる機会が失われています。
結果的に孤立化し、助けを求めたくても受け皿がない……私の母や私のように。助けを求めたくとも、頼る場所がないことが多いのではないでしょうか』