「伊織だ。ああ……」
伊織さんは電話を受けてすぐ、わずかにだけど口元を緩める。
それは――笑っているようにも見えた。
「……わかった。十分参考になる。それと、迎えは20時におはる商店まで来てくれ」
伊織さんはスマホの通話を終了させると、腕を掴んでいた手を緩める。これはチャンスと彼から離れてから、ギョッとした。
伊織さんは――笑ってたから。
花壇に座ったままの彼は、両手を組んで顎に当てると楽しそうに私を見上げてる。
そして、その薄い唇が言葉を紡いだ。
「――4月30日と5月27日」
「!」
伊織さんがその日付を口にした瞬間、私は衝撃で動けなくなった。
当てずっぽうで言える日付じゃない。しかもそれが二件重なるとなると、偶然というにはあまりに苦しい。
息を詰めた私に、伊織さんは愉しげな目を向ける。それは、間違いなく獲物を追い詰める獣の瞳だった。
「……200万の借金と300万の借金の、それぞれの返済期限。今までは温情で利子のみで返済を延ばしてもらっていたが、それぞれの借り入れ先が資金難で返済を延ばせないと言われているだろう?」
知られた……。
あまりのショックで一瞬気が遠くなりそうだったけど、何とか持ち直して伊織さんの前に膝を着いた。



